はじめに
あの頃、好きなアーティストのサビが電話の着信音になるだけで、なんだか特別な気分になりませんでしたか?📱✨
2000年代の日本では、「着うた」という言葉が音楽の新しい楽しみ方を象徴していました。
いまでは当たり前の“スマホで音楽を聴く文化”が生まれるずっと前──ガラケーの中に「自分だけの音楽」を持ち歩くことが、当時のトレンドだったんです。
レコチョクやLISMO(リスモ)といったサービス、CHEMISTRYや倖田來未、浜崎あゆみなど人気アーティストの新曲が「着うた」で先行配信されるたびに話題になりました。
まさに、平成の“音楽ケータイ”時代の幕開けです。
この記事では、そんな「着うた」の誕生から全盛期、そして衰退までの歴史をやさしく解説します。
ガラケー黄金時代を知る人も、知らない世代の方も──当時の“音が鳴る文化”を一緒に振り返っていきましょう🎶
I. 着うたとは何だったのか?
「着うた(Ringtune)」とは、携帯電話の着信音として実際の楽曲(ボーカル入り)を設定できる音楽配信サービスのことです。🎵
それまで主流だった「着メロ(着信メロディ)」は、電子音でメロディだけを鳴らす仕組みでしたが、着うたは本物のアーティストの歌声を流せるという画期的なサービスでした。
しかも自分の好きな部分──たとえばサビだけ、イントロだけなど、30秒前後を選んでダウンロードできるのが特徴でした。
● ソニーが持つ「着うた」商標と配信の仕組み
「着うた」は、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)の登録商標(第4743044号)です。
当時、ソニーやエイベックスなど大手レコード会社が出資した「レーベルモバイル社」が中心となり、携帯キャリア向けに楽曲を配信していました。
配信される楽曲データは、キャリアごとに異なる形式(auは3GPP2/AMC、ドコモは3GPP、ソフトバンクはMP4形式)で符号化されており、端末ごとに最適化されていました。
いまでいう「ストリーミング」ではなく、当時は1曲ごとに有料でダウンロードして保存するスタイルです。
● 着うたの関連サービス
着うたの人気が広がるにつれ、派生サービスも誕生しました。
- 着うたミニ: 数秒のフレーズを短く切り取ったミニバージョン(主にメール・アラーム向け)
- 着うたフル: 1曲まるごとをダウンロードできる高音質版(後述)
- 着うたフルプラス: さらに高音質・高ビットレート(AAC 320kbps)版
- 着信ボイス: アーティスト本人の声やメッセージを着信音にする人気企画
このように、「着うた」は単なる着信音ではなく、“自分の個性を表現する手段”としても楽しまれていました。

通話がかかってくると、お気に入りのアーティストのサビが鳴り響く──それだけでちょっとしたステータスだったんです。
II. 「着メロ」から「着うた」へ──誕生と初期の盛り上がり(2002〜2004)
着うたが誕生したのは、携帯が“電話以上の存在”へと進化し始めた2000年代初頭のことでした。📱
それまでは「着信メロディ(着メロ)」が主流で、ファミコン風の電子音で流行曲を鳴らすのが当たり前でした。ところが、当時の若者たちは「本物の歌声を流したい!」という新しい欲求を持ちはじめます。
そのニーズに応えたのが、レーベルモバイル社が2002年に開始した音楽配信サービス「レコード会社直営♪サウンド」──通称「レコ直♪」でした。
● 世界初の着うた配信は「My Gift to You」
2002年12月3日、KDDIと沖縄セルラーが展開するauブランドで、世界初の着うたサービスがスタートします。
記念すべき最初の着うたは、CHEMISTRYの「My Gift to You」。この曲がau端末にプリインストールされ、多くのユーザーが“歌が鳴る”新しい感覚に驚きました。
この成功をきっかけに、翌年以降はボーダフォン(現ソフトバンク)、NTTドコモも同様のサービスを展開。
“好きなアーティストの歌声が着信音になる”という新しい体験は、瞬く間に若者文化の中心へと広がっていきました。
● 初期の課題と限界
ただし、最初期の着うたにはいくつかの制約がありました。
- データ容量が大きく、通信に時間がかかる(当時は2.5G通信)
- 1回のダウンロード料金が高め(1曲200〜300円前後)
- ダウンロードできるのは楽曲の一部(約30秒)のみ
それでも「本物の声が鳴る」という体験は強烈で、携帯電話は“自分を表現するメディア”へと変わっていきます。
街中でも、電車でも、友人同士で「誰の着うた使ってる?」と話題になるほど、着うたは新しいコミュニケーションツールとして浸透していきました。

そして2004年、KDDIがさらに進化した「着うたフル」をリリースし、音楽を携帯で聴く時代が本格的に始まります。
次の章では、この“音楽ケータイ全盛期”を詳しく振り返っていきましょう。
III. 全盛期:「着うたフル」と「音楽ケータイ」の時代(2004〜2009)
2004年──携帯音楽文化はひとつの頂点を迎えます。
KDDI(au)がリリースした新サービス「着うたフル」は、それまでの“30秒サビだけ”ではなく、1曲まるごとを携帯でダウンロードできるという革命的なものでした。
新しい圧縮方式「HE-AAC」を採用し、3G通信でもフル楽曲を快適にダウンロード可能に。
当時のキャッチコピーは「ケータイがミュージックプレイヤーになる」。この一言に胸をときめかせた人も多いでしょう🎧
● LISMOの登場と“音楽ケータイ”ブーム
2006年、KDDIは「LISMO(リスモ)」をスタート。PCと携帯を連携させて音楽を楽しめる新しいプラットフォームを打ち出しました。
独特のリスモキャラクター「リスさん」のCMや、音楽ケータイW42S、W52Tなどが大ヒットし、「音楽のau」というブランドイメージが定着します。
街中のCDショップには「着うたフルで先行配信!」の文字が並び、レコード会社各社が競うように携帯音楽市場へ参入。
2007〜2009年頃には市場規模がついに1200億円を突破し、着うたは社会現象となりました。
● DRM問題とキャリアの壁
ただし、その裏では「DRM(著作権管理)」の強化によって、端末の容量不足や機種間互換性の問題も浮上します。
au・ドコモ・ソフトバンクそれぞれが異なるファイル形式を採用していたため、キャリアを乗り換えると楽曲を引き継げないという不便さもありました。
それでも、多くのユーザーが「お気に入りの曲をケータイで持ち歩く」ことに夢中になっていた時代──。まさにガラケー黄金時代と呼ぶにふさわしい瞬間でした。
📀 いま振り返るガラケー黄金時代
あの頃の着うた、LISMO、レコチョク文化をまとめて振り返る懐かしの1冊。
当時の携帯音楽シーンをリアルに体験した人なら、ページをめくるたびに「懐かしい!」がよみがえります。
● レコチョクへの進化と市場独占問題
2009年2月、レーベルモバイル社は社名を「レコチョク」に変更し、配信ブランドを統一。
しかし、大手レコード会社による独占的な配信体制が問題視され、公正取引委員会は「新規参入を妨げた」として独禁法違反を認定。
2011年にはソニー、エイベックス、ユニバーサルが最高裁で有罪判決を受ける事態となりました。
それでもこの時期、着うた文化は間違いなく日本の音楽シーンを支えていました。
ファンは着信音で“推し”を表現し、アーティストは「着うた先行配信」で話題を作る──。
音楽とテクノロジーが最も近かった、輝かしい時代です。

しかし、2008年にあの“黒船”が日本に上陸します。
次章では、iPhoneの登場とともに着うたがどのように衰退していったのかを見ていきましょう。
IV. スマートフォン時代の波と衰退(2008〜2014)
2008年7月11日──。日本の音楽配信業界を揺るがす転換点が訪れます。
AppleのiPhone 3Gがソフトバンクから発売され、世界的なスマートフォン時代が幕を開けました。📱
これまで携帯の中だけで完結していた「着うた」の世界に、PC・iTunes・クラウドを連携させたAppleの音楽エコシステムが登場。
ユーザーはDRMフリーの高音質な楽曲を購入し、複数デバイスで自由に再生できるようになったのです。
● DRMの“便利さの壁”
一方、「着うた」は厳重なDRM(著作権保護)により、購入した端末以外では再生できないという制約がありました。
たとえば機種変更をすると、せっかく買った曲が新しい携帯では使えない──。この不便さがユーザー離れを招きました。
さらに、ソニー・ミュージックがAppleとの競合関係を理由にiTunesへの楽曲提供を拒んでいたため、「iPhoneでは着うたが使えない」という致命的な状況に。
スマホが急速に普及する中、着うた文化は次第に時代の波に飲まれていきます。
● 市場の縮小と苦しい再生策
2010年頃を境に、ガラケー向け音楽配信の売上は急減。2012年には市場規模が半減しました。
レコチョクはAndroid向けアプリを投入し、「スマホでも着うたを聴ける」よう試みましたが、すでにiTunesがシェアの64%を握っており、勢いを取り戻すことはできませんでした。
それでも音楽業界は諦めません。2011年には、購入済みの楽曲をスマホでも無料で再ダウンロードできる「おあずかりサービス」を開始。
さらに2012年、ソニーもついにiTunesでの配信を解禁しました。
● “着信音文化”そのものの消滅
スマホが普及し、LINEなどのメッセージアプリが主流になると、電話やメールの着信そのものが激減。
人々は「音で個性を表現する時代」から、「画面でつながる時代」へと移り変わっていきました。
2011年〜2014年頃には、「誰かの着信音で流行を感じる」光景も消え、着うたは静かにその役目を終えたのです。

かつて一世を風靡した“歌う着信音”は、平成という時代の象徴的な文化として、記憶の中に刻まれることになりました。
V. 着うたミニと自作着うたの文化
● 「着うたミニ」とは?
2010年、レコチョクは新たな試みとして「着うたミニ」をスタートしました。
これは従来の着うたよりもさらに短い、3〜10秒ほどのサウンドを配信するサービスです。📱
メール着信やアラーム、通知音などに使いやすい長さで、曲の印象的なワンフレーズを切り取って楽しむスタイルでした。
しかし、同時期にスマートフォンが急速に普及し、DRMなしでフル楽曲を楽しめるiTunesやYouTubeが台頭。
結果的に「着うたミニ」はほとんど話題にならないまま、静かに幕を閉じました。
● “自作着うた”というもう一つの文化
一方で、当時のユーザーの中には「自分で着うたを作りたい!」という人も多くいました。
CDやMP3から自分の好きな部分を切り出し、専用ツールで携帯用に変換する──そんな“自作文化”がネット掲示板やブログを中心に広がっていきます。
代表的なツールには「携帯動画変換君」「Audacity」「ヤマハMMFコンバーター」などがあり、パソコンを使って自分好みの着うたを作るのが当時のトレンドでした。
▼ 自作着うたの作り方(当時の手順)
- 音楽CDやMP3をWAV形式に変換(リッピング)
- 波形編集ソフトで30秒前後に切り出す(サビなど)
- 専用ツールで携帯対応形式(amc / mmf / 3g2 など)に変換
- SDカードやケーブルを使って携帯に転送
こうした自作着うたは「えせ着うた」とも呼ばれ、低音質ながら無料・自由という点で人気を集めました。
ただし、著作権保護の観点から他人への配布や公開は違法とされており、あくまで個人利用の範囲内で楽しまれていました。

今思えば、こうした“自作文化”こそが平成のネット世代の象徴でした。
誰もがパソコンと携帯を駆使して、自分だけの音を作り、個性を表現していた──。
音楽を「消費」するだけでなく、「編集して遊ぶ」感覚が生まれていたのです。
VI. サービス終了とその後
2010年代半ば、フィーチャーフォン(ガラケー)の市場が急速に縮小する中で、「着うた」もついに幕を閉じます。
レコチョクは2016年12月15日23時59分をもって、従来型携帯電話向けの「着うた」「着うたフル」サービスを正式に終了。
2002年の配信開始からおよそ14年間で、累計17億ダウンロードという記録を残しました。
その後も一部のGIGA系サイトではフィーチャーフォン向け配信が続きましたが、メインユーザーの多くはスマートフォンへ移行。
Androidベースの“ガラホ”ではMP3やAAC形式の音楽が標準で使えるようになり、もはや「着うた」という枠組みは必要なくなりました。
auが展開していた「LISMO」ブランドも2017〜2018年にかけて終了し、音楽配信の主役はSpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスへと移っていきます。
一方で、レコチョクはNTTドコモ傘下となり、「dミュージック」などスマホ時代の音楽配信サービスとして生き残りを果たしました。
● 着うたが残したもの
「着うた」は単なる着信音ではなく、“音で自分を表現する文化”でした。
誰かから電話がかかってくると、お気に入りのアーティストのサビが鳴る──それだけで日常が少し楽しくなる。そんな小さな幸福がありました。

音楽とテクノロジーが密接に結びついた平成初期のガラケー時代。
そこには、今のスマホにはない“遊び心”と“ワクワク感”があったのかもしれませんね。
まとめ
「着うた」は、平成という時代を彩った象徴的な文化のひとつです。
2002年に誕生し、2000年代後半に最盛期を迎え、2010年代にはその役目を終えました。
着メロから着うたへ、そしてスマホ時代の音楽配信へ──。
その変化は、テクノロジーだけでなく、人と音楽の関わり方そのものを変えたとも言えるでしょう。
いま改めて振り返ると、ガラケーの中で鳴っていたあの“着うたのメロディ”には、
平成という時代のきらめきが詰まっていたように感じます🎶
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よくある質問
- Q「着うた」と「着うたフル」はどう違うの?
- A
「着うた」は曲の一部(約30秒)を着信音に設定するサービス、
「着うたフル」は1曲まるごとダウンロードして聴けるサービスです。
- Q着うたは今でも利用できますか?
- A
公式サービスは2016年12月に終了しましたが、古いフィーチャーフォン向けの一部サイトでは過去配信分が残っている場合もあります。
ただし、スマートフォンでの再生には対応していません。
- Q自作着うたを作るのは違法ですか?
- A
自分の持っているCDや音源を個人利用の範囲で加工する分には問題ありません。
ただし、他人に配布・公開することは著作権法違反になります。



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